AIは育てるもの――道具が「相棒」に変わるまで
「AIは道具だ」とよく言われます。私も最初はそう思っていました。
しかし、エンジニアとして35年、この2年ほどAIと毎日仕事をしてきて、いまは違う考えを持っています。
AIは、育てるものです。そして育てたAIは、道具ではなく相棒になります。
なぜ「育てる」なのか
きっかけは、AIに同じ説明を何度も繰り返している自分に気づいたことでした。
生成AIは非常に賢いのですが、標準の使い方では会話が終わるたびに記憶がリセットされます。
昨日あれほど丁寧に説明したプロジェクトの背景も、今日はまっさらな状態から。
優秀な新人が、毎朝記憶を失って出社してくるようなものです。
多くの方がここで「AIはこの程度か」と結論づけてしまいます。
しかし私は逆に考えました。
毎朝記憶を失うなら、申し送りの仕組みを作ればいい。
人間の職場でも、引き継ぎ書や業務マニュアルがあるからこそ、担当者が変わっても仕事は回ります。
AIにも同じことをすればいいのです。
具体的には、プロジェクトごとに「AIへの申し送りファイル」を用意しました。
プロジェクトの目的、これまでの経緯、守ってほしいルール、過去に試して失敗したアプローチ。
これらをMarkdownという簡単な形式のテキストで記録し、AIが作業を始めるときに必ず読ませる。
たったこれだけで、AIの働きぶりは劇的に変わりました。
説明の手間が減っただけではありません。「前回の失敗を踏まえて、今回はこうしましょう」と、AIのほうから提案してくるようになったのです。
このとき私は、35年前に新人だった自分を思い出しました。
右も左も分からなかった私が仕事を覚えられたのは、先輩たちが根気よく教え、失敗を記録させ、引き継ぎの文化を持っていたからです。
AIに対して私がやっていることは、あのころ先輩たちが私にしてくれたことと、本質的に同じなのです。
ツールと相棒の違い
道具と相棒を分けるものは何か。私は3つあると考えています。
1つ目は、記憶です。
電卓は何万回使っても私のことを覚えません。
しかし記録を蓄積したAIは、私のプロジェクトの歴史を踏まえて動きます。
2つ目は、文脈です。
「いい感じにやっておいて」が通じるかどうか。
人間の相棒に対してこの言葉が使えるのは、共有している文脈があるからです。
AIも、文脈を蓄積すれば「いい感じ」の中身を汲み取れるようになります。
3つ目は、成長です。
失敗の記録を残し、それを次の判断に活かす。
これを繰り返すと、AIとの仕事の質は右肩上がりになります。
道具は買った日が性能のピークですが、相棒は付き合うほど頼りになる。
この違いは決定的です。
そしてお気づきでしょうか。
この3つを支えているのは、AIの性能ではなく、人間側の関わり方だということに。
育てるとは、高度な技術のことではありません。
記録し、共有し、振り返る。人を育てるときと同じ、地道な営みです。
これは経営の視点でも重要な意味を持ちます。
最新のAIを契約するだけなら、どの会社でも明日からできます。
しかし、自社の業務知識や判断基準を蓄積した「育ったAI」は、他社が同じものをすぐには手に入れられません。
育てる過程そのものが、その会社だけの資産になるのです。
育てたAIが見せた瞬間
一つだけ、印象的だった場面をご紹介します。
私は日課として、競馬の予測AIシステムを運用しています(遊びのようで、実はAI育成の格好の実験場です)。
あるとき、このシステムの計算ロジックに深刻な設計上の欠陥が見つかりました。
数年分のデータに影響する大きな問題です。
このとき頼りになったのが、それまで蓄積してきた記録でした。
過去の経緯、試行錯誤の履歴、エラーの記録。
これらを読み込んだAIは、問題の原因を一緒に掘り下げ、修復の手順を提案し、再発防止の仕組みまで設計してくれました。
まっさらなAIに同じことを頼んでも、こうはいきません。
過去を知っているからこそ、未来の対策が立てられる。
まさに相棒の仕事でした。
この話の詳細は、いずれ本ブログでじっくり書くつもりです。
次回予告
次回からは、私がAIと一緒に作ってきたものを、実例として順にご紹介していきます。
SNSの投稿を自動化するエージェント、経費管理アプリ、そして先ほどの競馬AI。
いずれも「何を作ったか」以上に、「AIとどう協働したか」を中心にお伝えします。
読み終えたとき、「うちの業務でもできそうだ」と感じていただけたら、これほど嬉しいことはありません。
フューチャーセンス株式会社では、AI活用に関するご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。

コメント